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東京高等裁判所 平成4年(行コ)39号 判決 1992年10月07日

控訴人 市川一男

右訴訟代理人弁護士 高木裕康

同 奥川貴弥

被控訴人 朝木明代

同 矢野穂積

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実 第二 当事者の主張」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表六行目の「被告は、」の次に「昭和五八年五月から」を加え、同四枚目裏七行目冒頭から九行目末尾までを「(三) 控訴人は本件各土地について平成元年度は全ての報償費の支払いをせず、二年度は通常の賃料として支払ったものは課税し、支払わなかったものは非課税とする取扱をした。」と改める。

二  同一二枚目裏一行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「東村山市は本件各土地の借受にあたり、その各所有者に対し、報償費を坪当たり一か月五〇円の割合で支払うことを約束し、固定資産税は非課税の扱いとなるとの同市の見解を示し、各所有者もこれを信頼した。このような事情のもとで、本件固定資産税を遡って徴収することは、禁反言の法理により許されないから、右税の非課税処分は違法ではない。」

三  同一四枚目表七行目の次に行を改め次のとおり加える。

「(三) 本件非課税措置により、控訴人は何ら利益を得ておらず、他方東村山市はこの措置により本件各土地を使用することによる利益を享受しているので、東村山市と控訴人との関係で控訴人に損害賠償責任を負わせるのは妥当でない。

4 請求原因6について

仮に、本件固定資産税を賦課すべきものとすれば、本件において監査請求及び住民訴訟の対象とされるべきは、本件各土地の借受後に固定資産税を賦課しなかったことでなく、最初に固定資産税が非課税扱いになる旨の見解を示して本件各土地を借り受けたことそのものであるところ、本件訴訟においては、右事実は対象となっていないので、被控訴人らの請求は棄却を免れない。また、右行為については、行為の時から一年以上を経過しているので、今や監査請求の対象ともならない。」

第三証拠<省略>

理由

一  当裁判所も本件請求を認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか原判決「理由」欄の説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一五枚目裏一一行目の「合意がされ、」の次に「その際、東村山市から固定資産税は非課税になる旨の見解が示され、」を加え、同一六枚目表二行目の「固定資産税」を「固定資産」に、同一七枚目表七行目の「裁量」を「裁量権」にそれぞれ改める。

2  同一九枚目裏八行目の次に行を改め次のとおり加える。

「6 控訴人は、本件各土地を借り受ける際、東村山市はその所有者らに対し、本件各土地の固定資産税は非課税となる旨の見解を示したので、その後に課税することは禁反言の法理からみて許されず、したがって、これを徴収しなかったことに違法はないという。

しかしながら、東村山市が右のような見解を示したにせよ、前記のとおり、非課税とすることが違法である以上これを是正すべきことは当然であり、課税すべき債務は生じているのであるから、右主張は採用できない。」

3  同枚目裏九行目の「6」を「7」と改める。

4  同二〇枚目裏九行目冒頭から同二一枚目裏三行目末尾までを次のとおり改める。

「(一) 請求原因4(一)、(二)(1) ないし(3) の各事実、同(4) の事実中別件判決において六三年度各固定資産税の徴収権の時効についての判示がされたことを除くその余の事実及び同(三)の事実は当事者間に争いがない。

(二) 右争いのない事実及び<書証番号略>によると、昭和六三年三月ころには被控訴人朝木明代は東村山市議会本会議において本件各固定資産税を賦課するよう求め、更に前記東村山市監査委員は平成元年八月一〇日、控訴人に対し、昭和六三年度の固定資産税に対し、本件各土地は有料で借り受けているから、非課税措置は許されず、非課税とするなら報償費の支払いを取り止めるよう勧告し<書証番号略>、その結果東村山市は、右勧告の趣旨に則り、平成元年度は本件各土地につき報償費の支払いを取り止め、平成二年度からは有料としたうえで固定資産税を賦課するか、無償とするかを地主の選択にすることにその取扱を改めたというのであるから、控訴人としては、平成元年八月ころには、本件各土地について、報償費を支払ったものについては固定資産税を賦課すべきであり、賦課しないことは違法であることを認識していたか、少なくともこれを知り得たはずであって、知らなかったとしても過失があったというべきである。(なお、別件の判決が言い渡された平成三年三月二七日当時においては、昭和六〇年度の固定資産税の徴収権は既に時効により行使できないことになっていたことが明らかであるから、右判決により故意又は過失が生じたとの原審の判断は採らない。)」

5  同二二枚目裏三行目冒頭から同二三枚目表五行目末尾までを次のとおり改める。

「しかしながら、前記のように監査委員の判断が示され、現に本件各土地に関する固定資産税の課税に関する取扱が変更された等の事情が認められる以上、右主張は採用できない。」

6  同二五枚目表一一行目冒頭から同二六枚目裏四行目末尾までを次のとおり改める。

「地方自治法二四二条の二第一項四号により、地方公共団体に代位して職員等に対し違法な行為又は怠る事実に基づく損害賠償の請求がなされた場合、損害額の算定にあたっては、地方公共団体の得た利益も斟酌すべきであるが、右利益は当該行為又は怠る事実と法律上対価関係にあり、かつ相当因果関係にあることを必要とすべく、右のような関係にない事実上の利益はこれを斟酌すべきものではない。

ところで、本件では、前記のとおり、控訴人は本件各土地を借り受けるに際し、各土地所有者に対し、通常の賃料額よりかなり低額の報償費を支払うことを約束し、各土地の固定資産税は非課税となる旨の見解を示し、その後これを徴収しなかったものであり、東村山市は通常の賃料額から報償費を差し引いた額相当の利益を得ていることは明らかであるが、右利益の取得は事実上のものに過ぎず、法律上固定資産税の徴収をしないことと対価関係にないし、また対価関係に立たせるべきものでもなく、相当因果関係もないというべきであるから、これを斟酌すべきではない。」

7  同二六枚目裏七行目の次に行を改め次のとおり加える。

「4 控訴人は、同人自身は本件において何らの利益を得ておらず、東村山市は本件各土地の使用利益を受けているから、東村山市を控訴人との間で控訴人に損害を負担させるのは妥当でないというが、控訴人が東村山市に損害を与えたことは前記のとおりであるから、右主張は理由がない。

また控訴人は、本件において監査請求及び住民訴訟の対象とされるべきは、本件各土地を借り受けた際、その所有者に対し、固定資産税は非課税となる旨の見解を表明したことであるというが、右が監査請求の対象となるか否かはともかく、本件においては控訴人が本件固定資産税を賦課せず、東村山市に対して損害を与えた行為それ自体も新たな事実として監査請求及び住民訴訟の対象としての適格性を有するから、右主張は採用できない。」

二  右によれば、被控訴人らの請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上正俊 裁判官 谷澤忠弘 裁判官 松田清)

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